サングラスの賢人がブラブラする某局の番組で「厳島」を特集していた。そこで気になったのが厳島神社の屋根「檜皮葺(ひわだぶき)」だ。重厚かつ優美な曲線が特徴の屋根葺き手法で、檜の樹皮を用いた日本古来の独自工法だ。厳島神社のほか、出雲大社本殿、北野天満宮、清水寺、富士山本宮浅間大社本殿、善光寺本堂など、多くの文化財に見られる。しかし、近年は供給量不足で葺き替えが大変だという。世田谷ベースの歌人の番組によるとヒノキは海外で人気なのだそうだ。
檜皮葺屋根の耐用年数は形や立地環境で多少の差はあるものの概ね30~40年なのだそうだ。国宝に指定されている約200余棟の建物の約三分の一が檜皮葺の屋根で、重要文化財や宮内庁所属の建物を含めればその数は十数倍となる。それらすべての檜皮葺屋根を支障なく葺き替えるには3,000haの高樹齢のヒノキ林が必要だと試算されている。
国も対応策は講じてきた。林野庁は平成13(2001)年に、歴史的木造建物の修復に必要な檜皮や木材などの資材の供給や原皮師の養成等のための場の提供などを目的として「世界文化遺産貢献の森林」を近畿・中国地方などの国有林に設定した。さらに文化庁も同年、文化財建造物の修理に必要な資材や研修の場となる森林を確保するために「ふるさと文化財の森構想」を立ち上げ、調査研究や施設の建設を進めていた。
![]() |
スギ・ヒノキの素材生産量・素材価格の推移(出典:平成26年度 森林・林業白書)
注1:素材価格は中丸太(径14~22cm、長さ3.65~4.00m)の価格。
|
そうした状況に変化がでてきたのは、ヒノキの海外需要が近年になって高まってきたことだ。「林産物の輸出強化に向けた対応方向」(内閣府)によると、ヒノキの輸出量は平成23(2011)年の3万m3(13億円)から平成27(2015)年の12万m3(37億円)へ急増している。檜皮用の表皮を採取できるヒノキは最低でも樹齢半世紀以上のもの。ところが丸太としてヒノキを伐採する場合は樹齢50年もあれば十二分。海外需要が上向きのいま、森林所有者がヒノキを伐採して輸出に回す可能性は高い。そうなれば、檜皮採取に充分な樹径のある木は減り、檜皮採取の機会は一層少なくなる。
さらに深刻なのは、たとええ檜皮に適したヒノキがあったとしても、檜皮を採取する原皮師(もとかわし)と呼ばれる職人が少なくなっていることだ。檜皮向けのヒノキの表皮を採取するのは原木が痛まないよう樹木の活動が緩やかな秋から冬にかけて行われる。原皮師はヒノキの立木の根元から上部へ向けて木ベラで表皮を剥がしていく。こうした原皮師の仕事が寒い時期に高所で行う危険な作業だということもあり、後継者探しは難航し、その数は著しく減少している。