2016年9月8日木曜日

「japan」危機一髪

日本電気株式会社817日に、国立大学法人京都工芸繊維大学京蒔絵師で下出蒔絵司所三代目の下出祐太郎氏と共同で、食用に適さない草や木などのセルロース(不溶性食物繊維の一つ)を使った樹脂を材料に、漆塗りの深く艶のある美しい漆黒を実現したバイオプラスチックの開発を発表した。バイオプラスチックは石油を主原料とする従来のプラスチックと比べて環境にやさしい反面、製造コストが割高なことが課題だった。発表された製品は、機能性に加えて漆器のような質感とデザイン性で素材としての付加価値を高める狙いだ。

漆に代わる新素材が登場する一方で、本物の漆は相変わらず厳しい状況が続いている。漆の主な国内生産地は岩手県、茨城県、栃木県などで、生産量は漆器の需要減に伴い減少気味だ。漆を採取する職人の高齢化は著しく、後継者育成も難航している。林野庁によると、平成26年は対前年比4%減の1,003Kgほどだった。国内消費の98%には輸入品が使われ、その大部分を安価な中国産が占めている。文化財の修復でも明治以降は中国産の漆を多用したのが現状だ。

そんな中、国内の漆生産者に追い風が吹き始めた。文化庁2015224日に、2015年度からは国宝や重要文化財の建造物を修理する際、原則として国産の漆を使用するよう各都道府県教育委員会に通知した。漆の生産減少に歯止めをかけるのが狙いで、文化財は本来の資材・工法で修理することが文化継承では重要だと判断したようだ。当面は上塗りと中塗りを国産漆とし、平成30年度をめどに下地を含めて100%国産化を目指す予定だ。今後は林野庁と協力して漆の増産を図るほか、生産者の育成も進める方針だという。

この発表の席で下村博文文部科学相は「漆は英語で『japan』と記すほど、日本の文化を象徴する資材だ」と意義を強調していた。国産漆を使った日本伝統の漆器「japan」が復活することを期待したい。

ちなみに、漆の木は苗木から約10年で成木になり、1本から約250g程度が採取される。日本では漆を採取する際、幹に傷をつけ、染み出る樹液をヘラで掻き集める「漆搔き」と呼ばれる方式が主流だ。「漆搔き」は6月中旬から10月初旬まで行われ、漆を取り尽くした木は根本部分を残して伐採する。すると切り株からは新芽が出て10年後には再び漆が採れるようになる。漆の循環サイクル、凄いね。

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