2016年8月31日水曜日

染めない染屋

 薄い絹の一枚布に表裏で別の色、別の柄を染め付けたチーフがある。株式会社富田染工芸(東京都新宿区)が東京染小紋の伝承技術でつくっている「小紋チーフ」だ。印刷では紙やインクを選ばなければ絵柄が裏面に滲み出る裏抜けが発生する。紙より圧倒的に目の粗い布への染めとなると、素人でも裏抜けさせない技術の難しさを想像できる。
小紋は細かい柄の模様を型染めした着物の生地。室町時代に武具へ家紋を記す技術として発祥し、江戸初期に武士の裃を染めることで発達、同中期には庶民の生活にも浸透し始め広く普及した。
 主な技法としては、単色染めで極めて細かい柄の「江戸小紋」、複雑な模様を多色染する京友禅と型染めを融合させた「京小紋」、京友禅の影響を受けた手描き染めと江戸小紋の影響を受けた型染めの二種類の技法を用いる「加賀小紋」などが知られる。このうち「江戸小紋」の細密な模様は、江戸時代に幕府や諸藩より質素倹約が求められ、遠目には無地に見えるようにする工夫だった。その結果、小紋の染色技術は非常に高度なものに発達した。東京染小紋はそうした江戸小紋の技術を用いて、東京で染められたものを指す。
 小紋の染めには長さ1530cm、幅40cmほどの間に模様を型彫りした型紙が用いられる。型紙は上質な和紙二、三枚を柿渋で貼り合わせたもので、主に三重県の伊勢で生産される(伊勢型紙)。東京染小紋の型紙は東京で型彫りしたものになる。富田染工芸には創業より使用してきた型紙が12万枚以上あり、現在でも染めに使用しているという。
 この型紙を使って染めるところが小紋の特徴なのだが、型抜きされた部分には防染糊が塗られ、 “染める”のではなく“染めない”ところになる。この“染めない技術”を用いたのが「小紋チーフ」だ。そこには江戸時代に確立された極小模様を白抜きする、染めない技術が存分に活かされている。
 それに引き換え、プリンタの両面印刷でも失敗してしまうわが身の不器用さ・・・。

2016年8月25日木曜日

完全木製の卓球台

リオ五輪で男子団体が銀メダルを獲得した卓球。水谷隼選手と許昕選手の超絶ラリーは記憶に新しいところ。そのステージとなった卓球台に、いま新たな注目が集まっている。

スポーツの国際大会で使われる道具には厳密な規定がある。卓球台の場合は大きさや高さ以外に天板がフラットで全体が制振性に優れていることも求められる。さらに国によって異なる気温や湿度、輸送時の環境変化でも変わらない高い耐性も必須となる。そのため、国際大会で使われる卓球台を木だけで作ることは難しく、これまでは金属やアクリルなどの素材を組み合わせることが多かった。ところがリオ五輪で使われた卓球台は完全木製の「Made in Japan」だ。

卓球台のオフィシャルサプライヤーは卓球台・遊具などを製造する株式会社三英(千葉県流山市)。提供した卓球台は無限を意味する「インフィニティ(infihity)」という製品で、フランス語で「青い瞳」を意味する「レジュブルー(Les yeux bleus)」の天板を三英、オーヴァル曲線の重厚な脚部を家具製造の株式会社天童木工(山形県天童市)、デザインをソニーでウォークマンやヘッドフォンなどのデザインを手がけたプロダクトデザイナーの澄川伸一氏がそれぞれ担当し、革新的な卓球台ができあがった。ちなみに東日本大震災からの復興を願い、脚部には岩手県宮古市産のブナを使用している。

この美しい卓球台、温泉卓球場には置かれないよなぁ・・・。

2016年8月18日木曜日

露地の結界

茶室の庭、茶庭のことを露地という。

その露地で立入禁止区域を示すために使われる目印が「関守石(せきもりいし)」だ。
関守石は色染めした麻縄などで小石を十字に結んだもの。
日本庭園や神社仏閣の境内などでも聖域と俗域を仕切るために用いられる。

先日、この関守石を「ものづくり・匠の技の祭典2016」で見かけた。
自分は初見だったが、茶道をかじっているカミさんが教えてくれた。

その辺の小石を紐で結ぶだけで神通力が生まれる、なんとも不思議な結界の張り方だ。
しかも石のカタチや紐の色がいろいろあり、なかなかカワイイ。
露地は戦国・安土桃山時代の茶人千利休((152291年)が使い始めた言葉だ。
関守石も同時代に生まれ、一説では千利休が思いついたものだともいう。
こうした古い技法を守り、今に伝えているところが凄い。

塀に書かれた鳥居にも結界の力か・・・。

(佳木)

2016年8月16日火曜日

病み上がりの美酒嘉肴

やっぱり「醸し人九平次」は旨かった。

退院後、久しぶりの飲み会へ。
接待を兼ねて、いつもより高級な日本料理屋となった。
まだまともに酒が飲めない身、それでも乾杯程度は付き合いたい。
ありがたいことに、酒の選択は私に。
どうせ飲むなら旨い酒。

選んだのは萬乗醸造(愛知県名古屋市)の「醸し人九平次 純米大吟醸 山田錦」。
冷やで運ばれてきた酒を盃に注げば、果実のような上品な香りに期待が膨らむ。
口に含むと、程よい酸味とキレのある甘みが心地よく調和し、スルスルと喉を流れる。
料理が一層旨くなり、思わず顔がにやける。

萬乗醸造は元役者の蔵元と蔵元の同級生でシステムエンジニアだった杜氏が
若い蔵人たちを率いる異色の酒蔵。
しかし、その酒はフランス・パリの三ツ星レストランもワインリストに掲載する逸品だ。
ワインがブドウやブドウ農園で説明できるように、
日本酒も米や田んぼで説明できるような環境づくりに努めている。

そんな旨い酒だが〝ふぐは食いたし命は惜しし〟で今回は乾杯プラスアルファで我慢。
自分が飲めない酒の選択は人任せに、接待は忘れて料理に集中した。

(佳木)