2016年9月15日木曜日

伝統工芸の新たな担い手

茨城県が国の地方創生推進交付金を活用し、県内産地と連携して伝統工芸品の戦略的な市場開拓や新商品開発等を展開する「いばらき伝統的工芸品産業イノベーション推進事業」を始める。事業主体には、地域資源活用の新たな担い手として注目される「地域商社」だ。

県と連携するのは桜川市笠間市結城市3市で、それぞれの地場産業となる真壁石灯籠、笠間焼、結城紬が振興の対象となる。事業主体は平成8年に設立され、各産地組合などで組織する県伝統的工芸品産地交流促進協議会を母体に、地域商社機能を有するプラットフォームを構築する。平成18年度以降に事業を本格始動させ、同29年度までに産地振興ビジョンの策定、地域商社の設立、試行事業の実施等を行い、同3032年度には販路開拓や新商品の開発、人材の育成等を行う計画。

真壁石燈籠は桜川市真壁産の良質な花崗岩を使い、江戸時代末期から伝わる技法によって同地方で作られる。堅牢だが繊細優雅な彫刻に優れ、平成7年に国の伝統的工芸品に指定された。
浅間焼は江戸時代中期に始まった笠間市周辺を産地とする陶器で、伝統を受け継ぎながらも作家の個性をより重んじた作風が特徴。平成4年に国の伝統的工芸品に指定された。
結城紬は奈良時代に常陸国(茨城県)の特産物として朝廷に上納された布(あしぎぬ)が原形とされ、室町時代に下総結城家から幕府・関東管領へ献上されたことから「結城紬」と名を変えた。その特徴は糸に撚りがない嵩高繊維で、絹でありながら木綿織風の素朴さがうかがえる。昭和31年に国の重要無形文化財、同52年に国の伝統的工芸品に指定された。

しかし、現状は厳しい。経済産業省製造産業局伝統的工芸品産業室の「伝統的工芸品産業をめぐる現状と今後の振興施策について」(平成232月)によると、伝統的工芸品産業の現状は生活様式の変化や安価の輸入品の増大などにより需要が低迷し、生産額、企業数、従業員者数ともに減少を続けている。一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会によると、現在の伝統産業の情勢は平成24年度の生産額が約1040億円で同企業数が13567企業、同従業員数が69635人。ピークだった昭和50年代と比べるといずれも大きく減少し、昭和59年と比べると生産額は20%、企業数の約46%、従業者数は30%にまで落ち込んでいる。

「地域商社」で職人の仕事が再評価され、復活することを期待したい。




経済産業省製造産業局伝統的工芸品産業室「伝統的工芸品産業をめぐる現状と今後の振興施策について」(平成232月)


※ 茨城県商工労働観光部産業技術課の資料

2016年9月8日木曜日

「japan」危機一髪

日本電気株式会社817日に、国立大学法人京都工芸繊維大学京蒔絵師で下出蒔絵司所三代目の下出祐太郎氏と共同で、食用に適さない草や木などのセルロース(不溶性食物繊維の一つ)を使った樹脂を材料に、漆塗りの深く艶のある美しい漆黒を実現したバイオプラスチックの開発を発表した。バイオプラスチックは石油を主原料とする従来のプラスチックと比べて環境にやさしい反面、製造コストが割高なことが課題だった。発表された製品は、機能性に加えて漆器のような質感とデザイン性で素材としての付加価値を高める狙いだ。

漆に代わる新素材が登場する一方で、本物の漆は相変わらず厳しい状況が続いている。漆の主な国内生産地は岩手県、茨城県、栃木県などで、生産量は漆器の需要減に伴い減少気味だ。漆を採取する職人の高齢化は著しく、後継者育成も難航している。林野庁によると、平成26年は対前年比4%減の1,003Kgほどだった。国内消費の98%には輸入品が使われ、その大部分を安価な中国産が占めている。文化財の修復でも明治以降は中国産の漆を多用したのが現状だ。

そんな中、国内の漆生産者に追い風が吹き始めた。文化庁2015224日に、2015年度からは国宝や重要文化財の建造物を修理する際、原則として国産の漆を使用するよう各都道府県教育委員会に通知した。漆の生産減少に歯止めをかけるのが狙いで、文化財は本来の資材・工法で修理することが文化継承では重要だと判断したようだ。当面は上塗りと中塗りを国産漆とし、平成30年度をめどに下地を含めて100%国産化を目指す予定だ。今後は林野庁と協力して漆の増産を図るほか、生産者の育成も進める方針だという。

この発表の席で下村博文文部科学相は「漆は英語で『japan』と記すほど、日本の文化を象徴する資材だ」と意義を強調していた。国産漆を使った日本伝統の漆器「japan」が復活することを期待したい。

ちなみに、漆の木は苗木から約10年で成木になり、1本から約250g程度が採取される。日本では漆を採取する際、幹に傷をつけ、染み出る樹液をヘラで掻き集める「漆搔き」と呼ばれる方式が主流だ。「漆搔き」は6月中旬から10月初旬まで行われ、漆を取り尽くした木は根本部分を残して伐採する。すると切り株からは新芽が出て10年後には再び漆が採れるようになる。漆の循環サイクル、凄いね。

2016年9月5日月曜日

熱くないアスファルト

今年の夏も酷暑だ。東京都心の道路を歩くと、熱したフライパンの上かと錯覚する。そんな暑いさなかの20208月に東京五輪・パラリンピックが開催される。「オリンピックもビジネス」という大人の事情から最も広告収入が見込めて放映権が高く売れそうな8月開催となったようだ。それで大丈夫なのかと思っていたら、831日に国土交通省が路面の暑さ対策を検討するための実証実験を実施した。

実験場となったのは国道246号線で、東京都渋谷区の約250メートルの区間。対象となったのは「遮熱性舗装」と「保水性舗装」の二種類。「遮熱性舗装」は、舗装された路面に赤外線を反射する遮熱材を塗布したり遮熱モルタルを充填し、太陽熱を反射させて道路に熱がこもらないようにする方法。「保水性舗装」は、アスファルト材の隙間に保水剤を詰め込み、降雨などで染みこんだ水の気化熱で路面温度の上昇を抑える方法。いずれの方法でも路面が乾いた状態と濡れた状態を確かめた。

検証には元陸上競技・マラソン選手の瀬古利彦氏や車いす陸上競技選手の花岡伸和氏らも参加し、結果では「遮熱性舗装」に対する評価が高かったという。国土交通省は今回の検証結果をもとに、マラソンコースや会場周辺などの路面の温度対策について検討を進めていくそうだ。

都では都心部のヒートアイランド現象抑止策として、2001年から「保水性舗装」、2008年から「遮熱性舗装」を一部の都道に導入し、2006年度からは渋谷区でも路面舗装改良事業として「遮熱性舗装」を試していた。そうした事業を一歩進めるかたちとなった。

アスファルトの恩恵を享受してきた身としては、あまりエラそうなことは言えないが、ここは何とか道路関係者の皆さんの英知をお借りして涼しくしてもらいたいものです。微力ながら私も狭いベランダで打ち水に励むことにします。